壊れた世界 第二章

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「んとねー。ないよー」 「は?」  思わず間抜けな声を上げてしまった。  ない、とはどういうことだろうか? 疑問と憶測が頭を過る。考えられるのは、翼蛇種には性別という概念がないのか、もしくはどちらにでも換われるという両性具有なのかということだった。  やはり、魔物の生態は基よりフィルのことを良く知らないということに気付かされた。自分の憶測と過去の僅かな事例だけで、フィルという存在を勝手に作り上げていたと。  ならば、と思い直す。これから知っていけば良い、互いに知れば絆はもっと深まるだろう、と。過去の、フィルに出会う前の自分では考えられもしないことだな、とスタンは自傷した。  その時、フィルの側から視線を感じた。そちらを向くと、フィルが心配そうに見上げてきていた。  自分の発言でいきなりスタンが黙り込み、難しそうな顔つきで考え出したので、心配になったようだ。その姿を見て、スタンは内心苦笑しながらフィルの頭を撫でた。 「なんでもねーよ。それより、性別がないってどういうことだ?」 「ん、なら良いんだー。んとねー、ボクたち翼蛇種はどちらの性別にも成れるんだって。でも、一回しか決められないみたいだよー」  スタンが頭に描いた両性具有説が合っていた。中性から雌雄どちらにでも一回限りで換われるのだと知った。  フィルに換わる気はあるのかと聞いたら、まだ分かんない、でも換わる気はまだないよ、と返された。  そうか、と返すとフィルは頷きながら前を向くと、今度は嬉しそうな表情でこちらを向いた。街の賑わいを思い出し、興味が沸いたらしい。  そこで、自分たちの位置を思い出した。門を潜り抜けた先にある広場に突っ立っており、一歩も前に進んでいなかったのだ。これでは、通行の邪魔になると共にフィルの好奇心が満たされないだろうと考えると、スタンはフィルの手を引き、街中に向かって歩き出した。  城壁に囲われている安心感からか、街ですれ違う人々の顔には笑顔があった。外は魔物の脅威に晒される世界だが、この城壁の中に居れば安全だという考えがあるからだろう。
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