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しばらく進んで行くと良さそうな宿を見つけることが出来た。
通りの少し奥まったところにあるこの宿は、都市に出入りしている商人から聞き出したものだ。この都市に初めて来た旨を告げ、比較的安く、静かに寝れる良さそうな宿は無いかと聞いたのだ。
聞く商人は沢山いた。その内の何人かに話しかけたのだが、始めの商人は知らないと答え、またある商人はこの通りでは安い部類に入る宿を紹介してきた。もう少し情報を集めようと別の商人に聞いたところ、やっとこちらの条件に合う宿を見つけたのだ。
外見は通りの宿にあるような派手さはなく、内装は質素であるが、接客は良好だった。
受付で泊まりたい旨を伝え、番号が付いた鍵を貰うと部屋に向かう。勿論、フィルと同室だ。二部屋取る余裕はないのが最たる理由だ。尤も、それだけではないのだが、相手はフィルなので、スタンには変な気を起こせる訳がなかった。
階段を上がり、鍵に刻まれた番号の前に立ち、扉を開けた。部屋に入ると落ち着きのある空間が視界に飛び込んできた。窓まで歩いていったスタンは外を見る。ある程度の街の様子が見えることから、眺めは良好といったところだろう、と心の中で感想を告げた。
それから視線を後方に向けると、フィルがベッドの上に寝転がり、はしゃぐように跳ねてるのが見えた。音が少し気になるが、本人が楽しそうなのを見て黙認することにした。
なにより、フィルだ。例え、注意してもまったりと流されてまた元の状態に戻るだろう。それでは、結果は同じだ。だから黙認という手段をスタンは採った。
腰に着けたナイフホルスターをベルトごと外したスタンは、椅子に腰掛ける。一息吐くと再びフィルに視線を移す。跳ねてはいないが、今度はごろごろと転がっている。どこか嬉しそうな表情なので、これまた放置という手段を採った。
その内、飽きるだろう、という見込みのない推測を頭の中で決めたスタンは背もたれに身体を預け、休める姿勢を作った。
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