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その後、見事に焦げた肉を脇に放置したスタンは、大型のナイフを鋸のように使って竜の肉塊から適度な大きさの肉を切り出すと、それに別のナイフを刺して火の上に持っていき、再び炙りだした。
肉が程よく焼けた匂いが辺りに漂う。味付けは一切していない。それはそれで一つの味だろうと結論付けると、スタンは豪快に肉をぶつ切りにするとそれを口の中に放り込む。
固く弾力に富んだ独特の歯応えを味わいながら、ひたすら竜の肉を咀嚼する。一説には竜の肝が美味と聞くが、魔力に汚染されたも同然の身体にある肝だ。この肉も魔力の影響でこのような食感になったとしたら、まず美味とは言い難いだろう。
そんな思考をしつつも、肉を咀嚼する口は一切止める気配はない。質(タチ)の悪いグミみたいな感じだ。食べるゴムとも言えよう。肉らしいところと言えば、ワイルドな味と焼けた肉の匂いだけだ。
ふと、スタンはフィルに視線を向ける。
空に顔を向け鼻唄らしきものを口ずさんでいるが、ところどころ音が外れているのはご愛嬌として黙認することにした。
腹ごしらえをしたら休む暇もなく、街に向けて移動しなければならない。この荒野は魔物が徘徊する人間にとっては危険な場所だ。今でこそ静かで何もないが、いつ何時魔物に襲われるか分かったものではない。
そう頭の隅で考え、警戒しながら食事と休息を同時に摂る。フィルは相変わらず音の外れた鼻唄を口ずさんでいる。警戒のけの字もない様子だ。
「おめーな。もちっと警戒の意識持て」
「うんー? 警戒って何ー?」
「警戒ってのはな。万一に備えて注意し、用心することを言ってだなー」
「うん。知ってるよー。言ってみただけー」
スタンは再び呆れることになった。怒る気すら失せるほどのマイペースさと言えよう。
拾った時からこうだった。初めのうちは分からず、何か危険なことがある度に本気で心配もしたが、本人は焦ることもなくマイペースを貫いていた。
今では慣れっこである。沁々とスタンはそう思った。
「スタンが警戒してくれてるから、ボクは安心出来るんだよー」
ふと耳にそんな言葉が飛び込んできた。
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