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妻と娘と靴とダイアナ妃と鯉のぼりを片時も忘れない自分です
我が國の 埼玉県の所沢の
防衛医大病院で
産まれてきてくれた朝
欲張りな娘は
恥じらいなく 裸だった。
衣食住を 早く満たせと
妻と僕に 向かって泣いた。
妻が揃える ベビードレスと
裸足のあんよに 似合う靴を
モザンビークのマプトで見つけ
ようやく買って 帰った僕は
3本指で 両手に履いて
ベビーベットの柵を歩いた。
11ケ月も 歩き回って
ようやく立った 娘の足に
指輪をはめるように履かせた。
3才の クリスマスの夜
欲張りな娘は
ノルウェーのオスロで買った
妻の あかーい長靴抱いて
サンタクロースを
待って寝ていた。
昔 イギリスのボルトンで
ダイアナ妃が召していたのと
同じモデルの レインブーツ。
遠征ばかりのサンタクロースは
遠くで想いを 底まで詰めた。
5才の お遊戯会の舞台袖
欲張りな娘は
王女も姫もガラスの靴も
誰より一番 ねだって泣いた。
6才の 運動会の 昼休み
欲張りな娘は
僕のスニーカーの片方に
両足入れて 脱げずに泣いた。
7才の 七五三の 帰り道
欲張りな娘は
妻のヒールを 気取って履いて
半歩あるいて 転んで泣いた。
8才の 田舎の博多の 夏休み
怖がりな娘の
ズックに僕が 蛙を入れたら
飛んでは跳ねて 怒って泣いた。
12才の こどもの日
欲張りな娘に
アメリカのボストンで見つけた
鯉のぼりを象った
バスケットシューズを
早速 買ってプレゼントした。
その晩 娘は その靴を
履いては脱いで 抱いて眠った。
一緒にバスケしようねと
約束をして 抱いて眠った。
パパとバスケを する日まで
もったいないから 履かないと
丸々2年 棚に飾った。
13才の 娘の誕生日
カンボジアのタサエンで
僕は 両方の足を 失った。
僕が集めた 靴たちは
僕に履かれる 生涯を閉じた。
13歳の クリスマスの夜
欲張りな娘は
僕の ミリタリーシューズを
抱いて寝ていた。
サンタクロースが 持ってくる
僕の足を 待って寝ていた。
車いすから 降りた僕は
匍匐前進で鍛えた両手に あの
バスケットシューズを履いて
娘のベットの 脇を歩いた。
14才の こどもの日
娘と二人っきりで
利根川河川敷緑地公園で
バスケットボールをした。
車いすから降りた僕は
自慢の両腕で逆立ちし
11分も 歩き回った。
鯉のぼりシューズ履いた娘と
逆さまに見た 鯉のぼり。
欲張りな子鯉が
一番上を 泳いでいた。
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