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〈1〉
夢を見ていた。誰かが自分の腕を掴み、そしてそれは簡単に振りほどけぬ強さだった。悲鳴を上げることすら出来ない痛みが体の内側で木霊している。
闇の中から伸びるその手に、温もりはない。冷たく、心の中までも凍らせてしまうほどだ。
ここがどこで、どこまでこの闇が続いているのか。知る術はある。この手の持ち主だ。
「あなたは、誰?」
少女は言った。夢の中だとは気づいていたのだが、何故自分の腕を掴んで離さないのか知りたかった。手の持ち主は、言葉を、動きを持たない。機械の手かとも思ったが、それは肌色の細い指によって否定される。
疑問、とは違う──興味、と言ったほうが正しいだろう少女の胸中は、手の持ち主の「目」を探すことに向けられた。
クリスタルのような透明度の高い双眼で暗闇を見つめ、その先にあるだろう「目」を探す。しかし満足な結果は得られず、少女は仏頂面を作った。
「あなた、一体どうしたいの? 私に恨みでもあるわけ?」
返答はない。当然だ。ここで返事をするのなら、最初の質問に答えないはずがないだろう。
しかし、反応はあった。手の持ち主は少女の腕を強引に手前へ引っ張ったのだ。不意打ちに近いその行為によって、少女の体は闇の更に内側へと引きずり込まれていった。
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