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離して、離してよ。声にならない声で抗うも、少女の華奢な体は宙に浮きながら深海よりも更に暗い闇へと引かれていく。
どれだけの間、自由を奪われていただろう。夢から目覚めてしまうのではないかと思うほどに長い時の果て、ようやく少女の腕を掴んでいた手が離れた。
「ここは……どこ?」
零し、少女は歩く。向かう先は、暗闇に灯る薄明かり。僅かなその明かりだけが、少女の瞳に確かな意識を注いでいた。
少女を誘うような明かりは、足を進める度にその色を変えていた。最初は白。それから赤、青、緑、黄と、まるで虹のように次々と鮮やかな色を見せる。
その虹色に辿り着き、少女は驚愕した。暗闇の中で、異質として輝く光。中心にいたのは、自分と同い年くらいの少女と、生まれたてに見える赤ん坊だ。
少女も赤ん坊も、一糸纏わぬ姿で、まるで母親のお腹の中にいるように、背中を丸め、足を抱え込み、眠っている。
「まさか」
少女は自分の中でぞくりと音を立てる嫌な予感を抱えながら、2人の顔を覗き込んだ。
「やっぱり、そうなのね」
不安が的中したことで、ここがどこで、何故2人が虹色の光に包まれているのか理解した。
しかし、それが分かっても、この夢を見せている、或いは、空間を創りだしている張本人が誰なのかは、見当もつかない。
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