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圧倒的な存在感が、少女の心を砂のように脆くする。その、「人」ならざる「人」は優しく笑み、少女は引き寄せらた。
跪き、手に触れる。冷たい。自分の手を執拗に掴んでいたのは、やはりこの「人」だ。
「久しぶりね、フィーユ」
穏和な笑顔で言って、「何をそんなに恐れているのです?」少女、フィーユの髪を撫でた。
久しぶりと言うと語弊があるだろう。この「人」に逢ったのは、今まで1度しかない。
フィーユはその問いに答えず、氷のように冷たい手の甲へ、震える唇を押し当てた。
母なる大地に口づけを。一種のマナーとも言える儀式を済ませたフィーユは、恐る恐る顔を上げ、「人」と目を合わせた。
「恐がる必要はないのよ。あの2人も、そしてあなたも、私の大切な子供なのだから」
フィーユのクリーム色の髪が絶対零度の手に触れられ、俄に凍りついていく。彼女には特有の耐性があるから、髪が凍ったぐらいでは害はない。しかし、体の内側、その中心に位置する心までは堪えきれなかった。
「ごめんなさい、私……」
「いいのよ。確かに、2人とは違う理由で生きているものね。けれど、大地が望むのならば、あなたを鍵にすることもできるのよ。それを忘れないで」
ごめんなさいという口の動きだけをさせて、フィーユは大粒の涙を虹色の床へ落とした。
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