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「っ------!」
声にならない叫び声を挙げ駆け出していた
男に抱えられるようにエレベーターの中へ消える憐詞
体半分を此方側に残して女が、不適な微笑みを投げて寄越しエレベーターの中へと消えた
目の前でドアが閉まる
ボタンを連打する
階下へ降りて行く音が空しく聞こえる
バン!
ドアを叩き付けた
「どうした?!」
振り向くと、矢崎圭吾が訝しげな顔をして立っている
矢崎圭吾は私が勤める芸能事務所の主任マネージャー
私の上司だ
私は蓮池莉菜
この事務所で雪乃谷憐詞、芸名を旭(アキラ)と言う俳優のマネージャーだ
そして、憐詞とは同級生でもある───
「…憐詞が……」
一瞬で理解したのか、私の言葉を最後まで聞くことなく 脱兎の如く階段へと走り飛ぶように降りて行った
地下駐車場にたどり着くと駐車スペースから少し頭を出しクラクションを鳴り響かせる車の前に圭吾が怯む様子もなく立ちはだかっていた
私は肩で息をしながらも、圭吾の横に立つ
運転席の男の顔は ひきつり歪んでいる
後部座席に目をやると憐詞を胸に抱え込む女が喚いている
怒りに奮えた
何分睨み合って居ただろうか
不意に目の前の車のではないエンジン音が聞こえる
ドアを開ける音
バタンと閉まる音
決して女から目は離さない
コツコツと足音が近づいてくる
「何をしている?」
社長の声だ
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