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「嘘だろ、おい…。」
独り言を呟くのは、黒いパーカーとジーンズに身を包んだ僕の姿。
パーカーは安くて質が良いと評判の輸入ブランドの物だけど、ジーンズは大学のときにはまったマイナーブランドの物で当時やっていた居酒屋のバイトの給料を全部つぎこんだ自慢の品物だ。
裾なんてもうぼろぼろだし、かなり着古しているからとても小奇麗とはいえないがそれがまた格好良いと思っている。
「いつ潰れたんだよ、此処…。」
とりあえず母に見つからない様家を出て、商店街の花屋まで来てみたもののそこには”テナント募集"の悲しい文字。
間違いなくそこは色とりどりの花を並べていた店であったはずなのに、今では看板も 愛想の良かった店主夫妻も見当たらない。
閉店したのがいつなのかはわからないが、どうやら僕が家に引きこもっていた間にこの店も不景気の波とやらに飲み込まれてしまったようだった。
「―参ったな。」
大体、今まで生きてきた中で花屋の世話になった事なんてない。
と、なると。
宛てにしていた唯一の場所が潰れた時、他に心当たりなんて思いつく筈もなくて。
「…ま。仕方無い、よな。」
途中、ケーキ屋があったはずだし そっちで我慢して貰おう。
甘い物を好まない両親でも久々の息子からの贈り物だと思えば無下にもしないだろう。
溜息まじりに頭を掻けば僕は気だるい足取りでそのケーキ屋に向かった。
…そこも、潰れていなければいいんだけど。
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