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ふと、足元に暖かな感触を覚えた。
財布とにらみ合いながら足を止めていた僕の足元に、一匹の猫が擦り寄ってきたのだ。
その真っ黒い四肢は本来なら嫌われ者になるのだろうか。
「…ん?」
しかし痩せ気味の身体には首輪がつけられていて、どうやら野良ではないらしい。
良かった。
この猫はただの嫌われ者ではなく、愛してくれる人がいるようだった。
「…痒いのか、おまえ。」
喉を鳴らしながら僕の足に身体を擦りつけ、その愛らしい二つの瞳が僕を見上げているその猫に眉根を寄せる。
そのまま前足の付け根に手を差し込めばぐいと顔の前までその猫を抱き上げた。
…どうやら僕と同じものは見当たらない。こいつは”彼女”と呼んでいいようだ。
「―…ック、ラック!何処にいるのー?」
ラック…この、彼女のことだろうか?
不意に耳に入った捜索の声を聞けば僕は抱き上げた猫の顔をまじまじとみた。
けれども、彼女はというとにゃんと鳴いて首を傾げるだけ。
仕方なしに僕はそのラックとやらを探している声の主を探すことにした。
確か、女の子の声だったように聞こえたけれど―…。
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