21人が本棚に入れています
本棚に追加
それからだらだらと回り道をして、漸くケーキ屋についた所で僕は絶望した。
相変わらず店先は寂れていて”ジェイソン”とかかれた歪な看板には不細工なうさぎの絵が描かれている。
いっそホラーじゃないかとも思えるその絵も、五年以上ぶりに見ればいっそ懐かしささえ感じた。
いや、それはいい。
僕が絶望したのはそこじゃない。
むしろ店が潰れていなかったことに僕は心底安心した。
けれども問題はここからで、
「…えっ、足りないんすか。」
握り締めた二千円が物凄く寂しくて、僕は唖然とした顔でカウンター越しの店主を見ている。
店主も店主でやる気がないのか、鼻でも穿りだしそうな顔をして僕を見ていた。
「二枚じゃ足りないねぇ。せめてもう一枚はいるよ、兄ちゃん。」
「もう一枚…。」
手元にある札は二枚。
勿論ポケットに裸のまま突っ込んできた為、財布は今頃家の中。
余分な金なんて持っている筈もなくて。
「ま、まけてくれませんよね。」
「何処にケーキ屋で値段交渉するやつがいるんだ。」
…確かに。
ほれ、かえったかえったと あからさまな溜息をつく店主。
その場で固まったまま動くことの出来ない二千円を握った手と、立ち尽くした両足。
何故だろう、もうこの状況が悲しくなってきた。
僕は一体何をしているんだ。
良い年して。
それも誕生日なのに、ケーキ屋とか来ちゃって。金足りないし。買えないし。
…あれ、僕って今日で幾つになったんでしたっけ。
最初のコメントを投稿しよう!