花屋敷

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「親父さん、」 「応」 「それと、それと。あとそっちの白いのと…黄色いのも下さい。」 「…ショートケーキとモンブランだよ、兄ちゃん。」 確かに白いクリームには苺が乗っていて、その隣のは黄色っぽい山状の形をしている。 だけど、ショートケーキやモンブランの定義だなんてわからないし 此処は無難に言うのが賢い選択じゃないだろうか? そんな返しが頬の内側で踊るがそれは敢えて言葉にしないで唇端を結ぶ。 だって、僕は良い大人だから。 これは適当に身に着けたスルースキルって奴で。 …最も、ケーキと一緒に商品名をかいた紙も置いておくのが普通というか 優しさだとおもうのだけれど。 ガラスケースの中にあるのは色とりどりのケーキと名札だけだ。 「1860円だよ。」 店主がもたもたとした手つきでケーキを箱に詰めていくのを見ながら、僕は握り締めていた二千円をカウンターに置く。 それから店主は釣銭を適当に数えて渡すと、その顔に似合わない繊細なリボンを箱に括りつけた。 「まいど。」 白い箱に括り付けられたリボン。 中にはショートケーキとモンブランと、三百幾らかの適当なケーキが二つ。 目的は達成した。 当初に頼まれたものとは違うけれど、手ぶらよりはマシだろう。 カランカラン、と高い音を鳴らして扉を開ける。 とりあえずは、と胸を撫で下ろし僕は帰路につく―……筈だった。
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