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「あの、」
恐る恐る声をかけた僕の声に反応して、彼女がゆっくりと振り返る。
五月の風にふわりとワンピースの裾と髪が舞って、花の香りが広がる。
僕はそれに不意を突かれて思わず固まった。
「…はい?」
「え、っと」
控えめに返事をした後、小首を傾けながら不思議そうに此方を見つめる。
そんな動作を見て、僕のやわな心臓は直ぐに動機を起こした。
嗚呼、どうしてこんな事をしてしまったんだろう。
顔が格好良い訳でも無い、何か職が有る訳でも無い。
それどころかネトゲ廃人でオタクで、引き篭もりで。
人と比べて何かが秀でてる訳でも無い僕が、如何してこんなですぎた真似をしてしまったのか。
家に引き篭もって、レベル上げをして 扉の向こうに置かれた冷めた飯を食べて。
そんな何時もどおりの今日を過ごせばいいのに、何でこんな慣れない事をしてしまったんだろう。
だって、女の子となんて殆ど喋ったことがないのに。
そんな急に上手く喋れる筈なんてなくて。
「猫を…探してたみたいだったから。」
暫く間を挟んだ後、たどたどしい言葉で漸くそう言いきった。
目は泳いでるし、顔は俯いてるし 正直彼女の目に映る僕はかなり気持ち悪い男だったと思う。
そんな僕の額から変な汗が出て仕舞いにはどんどん萎縮していくもんだから、耐え切れないとばかりに腕の中のラックがにゃあと鳴いた。
正直これには助かった。
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