スラム

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夕焼け空がより一層、この肌寒い季節の風情を強調させる。 季節は秋。 彼には、そんな夕焼けがよく似合う。 赤い髪は、炎を思わせるように逆立ち短い。 丸太のように太い筋肉が、彼の力の強さを誇示しているようだ。 その美しい筋肉質な体には似つかわしくない、痛々しい銃痕が彼の右肩に見て取れる。 私は数ある物語の中から、彼の物語に興味が涌いた。 君達にも知ってもらいたい。彼の人生を。 彼は、孤児である。 生まれてこの方、家族という物に縁がない。 しかし、孤児であることに誇りを持っている。 ‘人の痛み’特に心の傷を誰よりも理解してやれると。 今の世の中には、孤児が溢れかえっている。 理想主義な政治家たちが、甘い汁を吸っているからだ。理想だけ高く掲げて、世の人たちを騙す。 なんとも詐欺師のようである。 男はスラムの中で子供たちを見守っている、いわゆる用心棒だ。 しかし、手元には金目の物など一つもない。 金がなくては、子供たちを飢え死にさせてしまうだけだ。 男は考えた。 今、世間を賑わす‘怪盗ロワイヤル’参加すれば、お宝が手に入る。 しかし子供たちを守るには、ここから動く訳にもいかない。 怪盗として、小さな盗みを働き何とか生活しているが……。子供たちを守るためには。 しかし、金は必要。 どうしたものかと男は考えた。頭のいい方ではない彼、答えが出せずに頭の中は疑問が渦を巻いていた。 すると、ふいに。 「レッド!何を変な顔してるんだ?新しい遊びか?俺もやるっ!」 男が眉をしかめ、悩んでいる姿を見た孤児の男の子が男の真似をして眉をしかめた。 「坊主、遊びなんかじゃねぇよ」 男は悩むのに疲れたのか、両手で男の子の脇を抱えるように持ち上げると、自分の肩に跨がせた。 「うわぁ!高いな!レッド!走ってよっ!」 「おうっ!」 男は満面の笑みを浮かべ、走り出した。 彼の名前はレッド。 心に炎を燈した、生粋の武闘派である。
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