スラム

4/6
前へ
/295ページ
次へ
レッドは、スラムの中心地に集まる人々を眺めて思いを廻らせていた。 確かに、ボランティアでも来てくれる人々はいる。 温かい料理、温かい衣服。しかし、子供たちの心は満たされる事はない。 親のいない子供とは、そういうものだ。 眠れない夜を枕を濡らして堪える子供たちに、罪なんてない。 そんな子供たちを守りたいが為に体を鍛え、仕事を熟してはいるが、今の時代、一人だけで大勢を助けられるわけもない。 爺さんは本当に凄い奴だったのだと、納得させられる。 それに対し、スラムの大人たちの心は荒んでいる。目に光などあるはずもなく、希望を失った彼らは屍も同じだ。 「レッド!おーい?」 考えを廻らせていたレッドは、男の子の呼びかけに気づかなかったようだ。 慌てて男の子に笑みを送り、男の子の視線と同じ位置に視線を合わせるようにしゃがんだ。 「わりぃわりぃ、ちょっと考え事」 「なんだよぉ、ボランティアの人たち帰っちゃうだろ?早く行こうぜ!」 男の子は、レッドの手を引き短い足で必至に歩いている。その姿が、可愛くて考え事なんて忘れてしまったレッドは、立ち並ぶ長蛇の列の最後尾に並んだ。 今日のご飯は、どうやらシチューらしい。この肌寒い季節には、体が温まるシチューは最高の贅沢だ。 金持ちの奴らは今頃、暖炉の前で気持ち良さそうに、うたた寝でもしているだろう。 しかしこのシチューが、スラムの人たちにとっては最高の贅沢なのだ。 「おいしい、温まる」 口々にスラムの住民たちの表情が綻んでいく。 ボランティアの人たちの僅かながらの優しさと温もりが、心の冷たさを温めてくれる。 優しさとは、良いものだ。しかし‘集会’も毎日あるわけではない。 甘えすぎてはいけないのだ。自らの力でスラムから脱出する。 良い働き口を見つける事がスラムの住民の何よりの願いだ。
/295ページ

最初のコメントを投稿しよう!

122人が本棚に入れています
本棚に追加