序章

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幾日かたったある日、大阪にある大谷家の屋敷の門前に一人の僧が立っていた。僧は門番に話しかけた 『門番殿。お訊ねしたいのじゃが、紀之介はおるかの。』 門番は怪訝な顔つきで僧を見ていた 『御坊よ。当家には紀之介なる者はおらぬ。どこか間違えておらぬかっ。』 『これはわしとしたことがっ。失礼した。そなたの主はおるかの。』 『なっ。そう言えば殿の幼名は紀之介であったと聞くが、殿を幼名で呼び捨てにするとはっ。御坊よ。そなた何者じゃ。如何なる用で参った。』 『わしは豊竹庵と申す。そなたらの主殿とは知己ゆえ取り次いではもらえぬか。』 『確かに殿はご在宅じゃが・・・』 門番は僧の顔をじろじろ見つめていた 『見たところ何かを企んでいるようには見えんな。よかろう。一応お伺いをたててみよう。ここで待っておれ。』 そう言うと門番は同輩の者にあとを任せ、屋敷の中へと入っていった。
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