822人が本棚に入れています
本棚に追加
幾日かたったある日、大阪にある大谷家の屋敷の門前に一人の僧が立っていた。僧は門番に話しかけた
『門番殿。お訊ねしたいのじゃが、紀之介はおるかの。』
門番は怪訝な顔つきで僧を見ていた
『御坊よ。当家には紀之介なる者はおらぬ。どこか間違えておらぬかっ。』
『これはわしとしたことがっ。失礼した。そなたの主はおるかの。』
『なっ。そう言えば殿の幼名は紀之介であったと聞くが、殿を幼名で呼び捨てにするとはっ。御坊よ。そなた何者じゃ。如何なる用で参った。』
『わしは豊竹庵と申す。そなたらの主殿とは知己ゆえ取り次いではもらえぬか。』
『確かに殿はご在宅じゃが・・・』
門番は僧の顔をじろじろ見つめていた
『見たところ何かを企んでいるようには見えんな。よかろう。一応お伺いをたててみよう。ここで待っておれ。』
そう言うと門番は同輩の者にあとを任せ、屋敷の中へと入っていった。
最初のコメントを投稿しよう!