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広間に通された秀長は正座し、吉継が来るのを待っていたが、廊下から足音が聞こえ、障子が開くと平伏した。
吉継は広間に入ると秀長を横目に正面に座り、五助は側面に座った。
『御坊よ。待たせてすまなんだ。わしの知己と申したそうだが、一向に思い当たらぬ。良ければ顔を見せてはくれまいか。』
吉継は興味津々で平伏する秀長を見つめ、五助は怪しい動きを見逃さぬように見つめていた。
『恐れながら吉継様に申し上げます。お人払いをお願いいたします。』
『なっ。無礼者めがっ。』
吉継は、僧の突然の申し出に怒りを露に掴みかかろうとした五助を手で制した
『御坊よ。そなたは知らぬと思うが、わしは業病に侵されておってのう。些か目も衰えておるのじゃ。その者はわしの目の変わりをしてくれておる腹心じゃ。つまりわしの体の一部と思うて貰えぬかな。』
『とっ・・・殿。』
五助は吉継の言葉に目を真っ赤にし、うつむいた。
『恐れながら申し上げます。何卒拙僧の申し出お聞き届け下さいますようお願い申し上げます。』
『貴様っ』
また五助を手で制し、暫し考えこんだ。
吉継は、先程から正面に座す僧の名前に聞き覚えはないが、声には聞き覚えがあった。『五助。暫し下がっておれ』
『殿。なりませぬ。このような者の言など聞いては。』
『構わん。わしはこの御坊を知っておる。安心いたせ。』
『・・・・・・。』
吉継の言葉に不承不承ながらも従い、僧を睨みつけながら広間を後にした。
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