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『御坊。御坊の言に従ったぞ。正体を教えてはくれぬかな』
吉継の言葉に平伏していた僧はゆっくりと身体を起こし、吉継を見つめた。
吉継は少し視力の衰えた目を細め、僧の顔を思い出そうと見つめ続けていたが、何かに気づいたのか、目を見開き、身体を震わせだした。
『まっ・・・。まさかっ・・・。あなた様はっ・・・。』
僧は笑みを浮かべた
『久しいな。紀之助。いつ以来かな。お主が郡山に見舞いに来てくれて以来か。あの折は何の構いも出来なくて悪かったのう。』
『だ・・・大納言様・・・。いや・・・。しかし大納言様は先日亡くなられはず・・・。』
『安心せよ。ちゃんと足もあるぞ。』
吉継は驚きの余り腰を抜かしたのか、秀長の元へ這って進み、手を握り締め、涙を流した。
『成人してからは常に沈着冷静な紀之介が、このように慌てふためくとは、幼少の頃のそちを思い出したわ』
吉継の涙につられたのか、秀長も涙を流した。
『何を仰いますか。これほど喜ばしい事は有りませぬ。こうしてはおられませぬ。早速登城して殿下の元に参りましょう。』
『待て。それは出来ぬ。』
『何ゆえですか。大納言様の訃報に皆がどれほど嘆き哀しんだかわかりませぬぞ。殿下は片腕を亡くしたと大声で泣かれておりました。』
『殿下には悪いが、わしが生きている事は伏せておきたいのじゃ。紀之介よ。考えてみよ。わしが存命の事を知らせる為なら、そのまま登城した方が早いわ。わざわざ僧に扮し、人払いまでさせて、そちに会わなくても済む事じゃ。』
『言われて見れば、確かに・・・。では何か子細があるのですね。』
『うむ。紀之介よ。そちの命を貰いに参ったのじゃ。』
そう言うと秀長は郡山城内での出来事から今日に至るまでの全てを語った。
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