序章

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吉継は秀長が去った後も一人広間で今後について黙考していた。 『殿。よろしゅうござりますか。』 『五助か。入れ。』 五助は静かに中に入ると吉継の前に座し、何かを決意した顔で吉継をじっと見ていた。 『その様子じゃと先程の話聞いておったな。』 吉継は五助に笑いかけた 『申し訳ありませぬ。殿の身が心配で・・・』 五助は平伏した 『構わぬ。気づいておったわ。恐らく大納言様、いや豊竹庵様であったな。あの方も気づいておられたであろう。』 『では殿、当然私もお供させていただけるのでしょうな。』 『何を申すか。誰も連れて行かぬわ。』 『なっ・・・何ゆえですかっ。』 『そちにはわしが死んだ後の大谷家を支えて貰いたい何せあれはまだ幼いゆえにな・・・。』 『若様の事ならば、諸角殿や土屋殿、蜂屋殿たちがおりまする。私一人が欠けても立派に支えてくれましょう。せめて私だけでもお側に置いてください。』 『五助よ。そちは常にわしの側に控え、わしを気遣ってくれた。わしはその労に報いたいのじゃ。この後はわしの元を離れ少しは楽をせよ。』 『何を仰いますか。私がいつ楽をしたいと申したのですか。殿あってこその五助にございます。何卒お供をお許しください。』 『・・・・・・。ふふ・・・。お主も物好きよのう。あい判った。供を許す。』 『あっ・・・有り難き幸せ。』 『ならば五助よ。一月しかない。色々と手伝ってもらうぞ。』 『ははっ。』 それから二人は一月の間忙しく働いた。 そして一月後、秀長の死去の傷も癒えぬ豊臣家に大谷刑部少輔吉継の急逝と急遽元服した嫡男吉治の相続の願いが出された。 それから七日後の深夜に大谷家の菩提寺にて穴を掘る男たちが目撃され、一時噂になったが直ぐに世間から忘れ去られた。 それと同じくして京、敦賀、加賀、信濃の各地から男たちが消えたが余り目立たなかった。
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