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所属不明の軍勢の正体を明らかにする為に使者の命を受けた島左近と明石全登は笹尾山を下り相手の陣に向かっていた。
島は馬を進めながら、相手が徳川方だった場合いかに対処するべきか等、今後の方針を考えていた。
『島殿。あれを見てくだされ。』
全登に声をかけられ、相手の陣を見た左近は驚きの声を挙げた。
『こっ・・・これはっ。まだ陣を敷いて一刻(約二時間)ほどだというに・・・。』
左近と全登は陣の周囲を囲む二重の馬防柵。しかも柵に使われている杭は、大人の腕程の大きさがあった。その陣を見せつけるように盛大にかがり火を焚く相手の陣。
幾多の戦場を往来してきた二人にとって、この規模の馬防柵なら何度も見た事はあるだけに、とても一刻余りで設える事のできる物ではない事が判っていた。しかし目の前の軍勢は、それを成し遂げていた。正体不明の不気味さも合わさり、二人とも畏怖を覚えた。
『何者じゃっ。それ以上近づく出ない。近づくと容赦せぬぞ。』
見張り番らしき兵の声に二人とも気を取り直し、槍を構えてこちらを見ている兵士に馬を降りて声をかけた。
『某は石田家家臣の島左近にござる。後ろのご仁は宇喜多家の明石全登殿でござる。総大将宇喜多秀家様の命によりご挨拶に参った。大将殿にお取り次ぎ願いたい。』
『承りました。お伺いをたてますゆえ今暫くその場にてお待ちくだされ。』
見張り番は一礼すると、仲間の兵に声をかけると、中へ走り去った。
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