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☆
いつ落ちてもおかしくないくらいに大きな満月が中天に位置している。
夜空一面に星が広がり、キラキラと輝いて見えた。
「今なら可能かもしれないな。あの月を落とすことなど。
造作もないことのように思えてくる」
――ある高層ビルの屋上。
青い鳥の羽根のような結晶を銀色の満月に透かすように見、その男は呟いた。
口元にわずかな笑みを刻んで。
年齢は三十代前半か。
深い色の黒髪に、冷たい感じの蒼い瞳。
整っている顔にはまったく柔らかさはなく、見るものを凍てつかせる雰囲気に包まれていた。
漆黒のコートの裾が風で大きく揺れている。
どれくらいそうしていたのか分からないが、寒空の下にいるというのにまったく表情を変えていない。
――時刻は零時。
オフィスビルが影を落とす町は静まり返っていた。
「星の数ほどに人の夢、願い、思いがある」
歌うように口にし、男は青い鳥の羽根のような結晶の光の加減を確かめ、満足な顔をする。
しかし……と言葉を続ける。
「まだ。まだだ。これ程度の光だと我らの願いには届かない」
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