ルララ ルラ ルララルラ…

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その時だ、携帯も沈黙してひとりぼっちになった部屋の外に、そいつが現れたのは。 他に音を立てる物もなく、涙のせいで全てがぐにゃぐにゃゆがんで濡れたように見える部屋に、力任せに三回、やかましくノックの音が転がった。 「よりにもよって……」 出ようにも涙は止まらず、強引にぬぐってもすぐまたこぼれる。恐らく顔も酷いだろう、目は真っ赤でまぶたは腫れまくってるに違いない。こんな顔、こんな精神状態で応対になんか出たくない。 もう、何だよ、新聞の勧誘とかじゃねえだろうな。 仕方ないから不機嫌な声だけドアの外に投げる。 「どちら様?」 いかにも怠い俺の声と正反対に、人生楽しくて仕方がないような底抜けに明るい返事が来た。 「名乗る程大した名じゃないが、人呼んでラフ・メイカーだ!!」 ……変質者か?頭がイカれてるとしか思えない台詞だ。 「泣き声が聞こえたから慌てて駆けつけた。泣いてんだろ?アンタに笑顔を持ってきたんだ、入れてくれ。外寒くてさぁ」 寒いって、アレか、ロングコートの下は服着てないとかか。通報した方がいいのかこれ。 『笑わせ屋』《ラフ・メイカー》だって? 「冗談じゃない!今は出前のピザ取る気にもなれないのに、そんなモン呼んだ覚えはねーよ。俺に構わず消えてくれ、どっかいけ!」 今俺は悲しみに浸ってひたすら号泣したいって言うのに、ドアの向こうに人がいるんじゃ泣くもんも泣けねーだろうが。しかも変質者の疑いがあるし。 思いつつ、お構いなしに脳内ではあの子がその好きな人とやらを恥じらいつつ語る世にも残酷な回想が再生され、頬を伝う涙も自動再生され始めた。
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