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黒煙のようにも似た砂埃りが舞う黒砂漠(ブラックサンド)の上で俺は、両手に握った両手用の両刃大剣(バスターソード)をぴたりと身体の正中線に構えた。 鈍色に光る剣尖が、俺に向かって迫ってくる。 それを見落とさず、正中線に構えていた剣で敵の剣を交わし、一気に敵の懐に入り、腹をえぐった。 けれど思いのよか敵の皮膚は鉄のように固く、ただ鉄と鉄がぶつかり合う音に似た、高い音だけが響き、結果的に浅く切っただけになった。 けれども少ながらずダメージは与えられた。 証拠に、敵の頭上に浮かぶ敵の生命残量を可視化した細い横線が、僅かにその幅を縮めたからだ。 そして視界左上に固定表示されている細い横線―HP(ヒットポイント)バーの名で呼ばれる青いそれは、俺の生命残量を可視化したものだ。 まだ最大値まで残っているが、その見方は適切ではない。 俺は今、二分の一の確率で死の淵で戦っている。 つまり生きるか死ぬかの二選択しか無いからだ。 敵の剣が再び攻撃モーションに入った。 けれどその一寸前に気付いた俺はバックダッシュし距離を取った。 「はっ………」 無理矢理大きく空気を吐き、気息を整える。 この世界の《体》には酸素を必要としないが、向かう、つまり現実世界に横たわる俺の生身は今激しく呼吸を繰り返しているはずだ。 投げ出された手にはじっとり冷や汗ゆかき、心拍も天井しらずに加速しているだろう。 当然だ。 たとえ、俺が見ている全てが仮装の3Dオブジェクトであり、まだ減少されいない数値化されたヒットポイントであろうとも、俺は今確かに己の命をかけて戦っているのだからだ。 けれどそう考えると、この戦いには不公平極まりないものが浮上する。 何故なら、眼前の《敵》―黒色に全身を纏い、鉄のように堅い皮膚と腕、まるで悪魔のような頭と背中には黒い二枚の翼を持つ半人半魔の怪物を見た目通り人間ではないだけでは無く本物の命すら持っていない。 何度殺されようと、システムによって無限に再生成されるデータの塊。 ―いや。 今、あの悪魔を動かすAIプロは、俺の戦い方を、観察し、学習して、対応力を刻一刻向上させている。 しかしその学習データは、今の一個体が消滅した途端次にこのエリアに湧出する同種の個体にはフィールドバックされない。 だから、ある意味では、この悪魔も生きている事になる。
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