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腰が埋まり、胸元まで赤い闇が迫る中、彼女は
「さよなら、今まで楽しかった。ここで道を失うのは残念だが…後は、君に頼みたい」
恐らく最期になる言の葉をつむいだ。
「君が、天に立て」
それが私のただ一つの望みだと笑って。
それだけ言い残すと彼女の姿は――音すらなく自らの作り出した闇の中に消えた。
「……」
全て、終わった。
目の前で失われたこの世で最も大切なもの。
何も出来なかった己に嫌気がさす。
何が悪かったのだろう。何処で間違えたのだろう。こんな事なら、彼女を自由になんて、しておくのではなかった。
鎖に繋いで、部屋に閉じ込めて誰にも会わせず、自分だけのものにしてしまえば良かった。
でも、そうしたら彼女はきっと微笑んではくれなかっただろう。
抗い難い欲望とのジレンマに、傷付いた心が音を立てて壊れて行くのが分かった。
「くく…くくくっ」
気が付けば、喉の奥から哄笑が溢れていた。
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