ハツカレ

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次の日、教室に一番乗りで来て、日記帳を探した。 「どうしよう…どこにもないよ」 極秘事項が乗っているノート。あれを誰かに見られたら…恥ずかしくて耐えられない。 「……探し物はこれかな? 山岡 杏子さん」 誰もいないはずの教室。 もし、クラスメイトが登校してきたとしても、私の名前をフルネームで呼ぶ人はいない。 それに、なにより。 見知らぬ男の手には、探し求めていたノートがあった。 「それ、私の!」 「大正解」 教室に入ってこない男から、ノートをとりあげた。 「それ、君が書いたの?」 「そうです」 「可愛いね」 「……!」 自分でも、顔が赤くなっているのがわかった。 可愛い、なんてお世辞に決まっているのに。 ニコニコしている男と、固まってしまった私。 時が止まった。……ような気がした。 学校の登校ラッシュの時間を知らせる音が、静けさを破った。 「それじゃ、俺帰るね」 「えと、ありがとうございました」 「いいよ。詩、またできたら見せてね」 「え!?」 「はい。これ俺のメアド。じゃ、またね。杏ちゃん」 ノートの切れ端のような紙に、英語の羅列が書いてあった。 「修二…さん」 それが、修二さんとの出会いだった。
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