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「す、すみません!どうしてもそれが必要なんです!」
彼は何も言わない。ただ黙って彼女の言葉を聞いていた
「その魔物の牙は特別な薬の材料なんです・・・」
「・・・知ってる。だから高値で売れるんだ」
ようやくしゃべった彼はそのまま黙った。彼女はそれが続きを促しているものと感じ、また話を始めた
「それで、父がその薬でしか治らない病気にかかってしまい・・・」
(・・・マタス病か)
彼はその病気を知っているようだがあえて彼女の話の続きを聞いた
「ここから先にある王都の病院には薬がもう無くて・・・」
今にも泣きそうな声だった。しかし、その声には芯が通っていた
「それで材料であるその魔物の牙を求めてこの森に入ったのですが・・・魔物を見た瞬間、怖くなって逃げ出してしまったんです・・・」
話し終わったのか、彼女もまた黙り込んだ
彼はしばし牙をジッと見つめた後、空いた手で自分の頭をガシガシとかき始めた
「あー、いくらだ?」
「え!?」
「だからっ!!いくらで買い取るかってきいてるんだ!」
「え?でも、こういうことはギルドを通さないといけないんじゃ・・・」
「いいからっ!!いくらで買うんだ!?」
「今は持ち合わせが無いのですが、王都に行けば多少は・・・」
「ならそれでいい。それならこの牙を譲ってやる」
「・・・・・・・・・え?あっ!ありがとうございますっ!!」
彼の言葉が理解できないのか、彼女は呆然とした後慌てて彼にお礼を言った
しかし、彼女に渡さずギルドにその牙を売ればかなりの値になっていたハズだった
理由は、牙は薬だけでなく武器の材料にもなる。つまりその分も売値に加算されるはずだったのだ
(ギルドに渡せばそれなりにしたのになぁ。なんで俺はいつも甘くなってしまうのか・・・)
彼は彼女にバレないように小さくため息をついた
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