2 無限夢

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 白髪頭の老人は、どうやら自分が目覚めるまで待っていたものと見える。  よく見ると灰色の背広の肩や腕に、うっすら埃が付着している。  ここは墓地よりさらに空虚な場所だが、埃だけは嫌というほどたまる。  こんな場所、5分もいれば埃まみれは確実なのだ。  老人の正体を気にしつつも、自分は不思議と警戒心を緩めた。  一目見て人のよさそうな老人だと思ったこともあるが、それより何より自分を落ち着かせた最大の要因は、老人の顔に懐かしさを覚えたことだ。  夢の中で見たあの女性に抱いたものと同じ感情。  知らないはずなのに無性に懐かしい。 「探したよ。トウヤくん」  老人が親しげに声をかけてきた。 (トウヤ?それが僕の名前か?) 「まさかこんなところにいるなんて思いもしなかったが・・・見つかって本当によかった。さあ、うちに帰ろうじゃないか。」 「僕は・・・」  言いかけて言葉につまった。  疑問は山のようにある。  しかし、いざそれを口にしようとすると言葉にならない。  何から聞いたらいいのか、考えがまとまらない。  言い出しかけて言葉につまった自分に、老人はまるで事情を察したようにやさしく笑いかけた。  その笑顔だけで今は満足な気がした。  それに一つだけ分かったことがある。 (僕の名前はトウヤ)  心の中で何度も何度もその名をつぶやいてみる。  正直しっくりとはこない。  だが、今はそれだけでいい。  自分には名前がある。  自分を探していた人がいる。  僕は生きている!  こうして自分はコンクリートの巨大な棺桶から抜け出し、現世へと蘇った。  トウヤがベッドを軋ませ、埃まみれの床に降り立った。  トウヤの顔が窓から差し込む朝日に照らされ輝いた。  黒い髪が艶やかに光を反射させる。  肌は朝日を浴びて、まるで雪のような白さだ。  そんなトウヤの顔は、不思議と夢の中のあの女性によく似ていた。  少年はトウヤという名を与えられ、現世へと立ち返った。  夢の中のあの女性も、名前が明かされた時、この世に姿を現すのだろうか・・・・
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