1 朱い髪、紅い瞳、赤い血

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 夕日はいよいよその赤さを増し、街をオレンジ色に染め上げる。  誰しも密かに胸を躍らせる金曜日の夕暮れ。  帰宅途中のサラリーマンも、これから街へ繰り出す若者も、学校帰りの学生も、家族づれも、みなが幸せそうに通りを歩いていく。  車道も車であふれかえる。  そんな黄昏の穏やかさと楽しげな声とで彩られた街に、不釣り合いな大きな悲鳴が響き渡る。  金切り声をあげたのは帰宅途中のOL。  悲鳴のあまりの凄まじさに、辺りはかえって奇妙な静寂に包まれた。  悲鳴を耳にした誰もが心臓を鷲づかみにされ、体を硬直させた。  だが、その静寂はすぐに打ち破られることとなる。  悲鳴に続いて、人々で賑わう街角で耳にするには、これまたあまりにも不釣り合いな雄叫びが聞こえた。  それはおよそ人間の発する声とは言い難い。  まるで熊かライオンのような、野太く荒々しい獣の声だ。  動物園から猛獣でも逃げ出してきたのだろうか。  こんな都会の真ん中で、猛獣の雄叫びを耳にすることを誰が想像しただろう。  しかし、この恐ろしい雄叫びを耳にしても顔色ひとつ変えず、声が聞こえた方角を見つめる少年がいた。  大通りから離れた人気のないビルとビルの間の路地。  少年はそこで地面にうずくまる複数の制服姿の学生たちに囲まれていた。  学生たちはみな一様に、苦しそうに呻き声を上げている。  一目見ただけでケンカの後だということがわかる。  ひとり両足でしっかり立っている少年はというと、見たところ傷らしい傷を負っていない。  いや、それどころか呼吸ひとつ乱れていないではないか。  少年は雄叫びがした方角を見つめながら小さくつぶやいた。 「また、新手のブラッドでも現れたな。」  少年はなぜか楽しそうに、軽く笑みを浮かべる。  少年は未だひとりも立ち上がる気配を見せない学生たちをそのままにして、薄暗い路地をあとにした。  ビルの隙間から差し込む夕日に照らされた少年の長い影だけが、学生たちの体を撫でていった。
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