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一方、悲鳴を発した当の本人の前には、想像よりもさらに凄まじい光景が広がっていた。
歩道には無残に身体を八つ裂きにされた人間が横たわっている。
その数およそ4、5体。
手足がバラバラになった遺体もあり、正確な数が把握できない。
それだけでも悲鳴をあげるには充分なのだが、その惨劇にさらなる恐怖を付け加える存在がそこにいた。
人間・・・ではない。
しかし、二足歩行の生き物であることは間違いない。
全身が黒い剛毛で覆われている。
背丈も人間より一回り大きいようだ。
一見すると熊かと思うが、その顔は熊と言うよりは狼や犬に近い。
ピンと伸びた長めの耳も特徴的だ。
大きく開かれた口には血に濡れた牙が並び、手には長い鈎爪がこれまた大量の血を滴らせている。
そのようなものが存在すればの話だが、これはおそらく人狼と呼ばれるものではなかろうか。
まるで特殊メイクを施したかのような醜い怪物が、血まみれで唸り声をあげている。
その血は紛れも無く、路上に横たわる憐れな犠牲者たちのものなのだ。
何も知らず通りを歩いてきたOLは、角を曲がった先で突如この惨状を目の当たりにし、完全なパニック状態に陥った。
悲鳴だけが喉の奥からほとばしり出る。
それ以外は体を動かすことさえ忘れ、小刻みに震える手足以外、完全に人間らしさを失ってしまっている。
まるで魂を抜かれた人形のようだ。
周囲にはOL以外に人の気配はない。
そんなOLのもとに血まみれの獣人が歩みよる。
両足で歩いてはいるが人間らしからぬ奇妙な足どり。
その歩みはやや緩慢で、ステップを踏むように一歩一歩跳びはねながら前に進む。
まるで歩き方を忘れたかのようにぎこちない足の運びだ。
ハアハアと生々しい息遣いがOLの耳にも届いた。
それはやはり、人間のものとは少し違った。
舌を垂らした犬が見せる、あの獣じみた息遣いだ。
全身に血を浴びてもなお、血に飢えた野獣のごとく獣人がOLへと迫る。
そして、獲物を品定めするかのように、時折右に左に跳びはねる。
このOLが次の犠牲者となるのは、もはや時間の問題だった。
体を動かせないOLは、恐怖から逃れる唯一の手段として目を閉じた。
死を覚悟し、目を閉じかけたその時、視界を横切る影があった。
夕日に照らされたせいだろか。
その影は赤かった。
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