1 朱い髪、紅い瞳、赤い血

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 一方、悲鳴を発した当の本人の前には、想像よりもさらに凄まじい光景が広がっていた。  歩道には無残に身体を八つ裂きにされた人間が横たわっている。  その数およそ4、5体。  手足がバラバラになった遺体もあり、正確な数が把握できない。  それだけでも悲鳴をあげるには充分なのだが、その惨劇にさらなる恐怖を付け加える存在がそこにいた。  人間・・・ではない。  しかし、二足歩行の生き物であることは間違いない。  全身が黒い剛毛で覆われている。  背丈も人間より一回り大きいようだ。  一見すると熊かと思うが、その顔は熊と言うよりは狼や犬に近い。  ピンと伸びた長めの耳も特徴的だ。  大きく開かれた口には血に濡れた牙が並び、手には長い鈎爪がこれまた大量の血を滴らせている。  そのようなものが存在すればの話だが、これはおそらく人狼と呼ばれるものではなかろうか。  まるで特殊メイクを施したかのような醜い怪物が、血まみれで唸り声をあげている。  その血は紛れも無く、路上に横たわる憐れな犠牲者たちのものなのだ。  何も知らず通りを歩いてきたOLは、角を曲がった先で突如この惨状を目の当たりにし、完全なパニック状態に陥った。  悲鳴だけが喉の奥からほとばしり出る。  それ以外は体を動かすことさえ忘れ、小刻みに震える手足以外、完全に人間らしさを失ってしまっている。  まるで魂を抜かれた人形のようだ。  周囲にはOL以外に人の気配はない。  そんなOLのもとに血まみれの獣人が歩みよる。  両足で歩いてはいるが人間らしからぬ奇妙な足どり。  その歩みはやや緩慢で、ステップを踏むように一歩一歩跳びはねながら前に進む。  まるで歩き方を忘れたかのようにぎこちない足の運びだ。  ハアハアと生々しい息遣いがOLの耳にも届いた。  それはやはり、人間のものとは少し違った。  舌を垂らした犬が見せる、あの獣じみた息遣いだ。  全身に血を浴びてもなお、血に飢えた野獣のごとく獣人がOLへと迫る。  そして、獲物を品定めするかのように、時折右に左に跳びはねる。  このOLが次の犠牲者となるのは、もはや時間の問題だった。  体を動かせないOLは、恐怖から逃れる唯一の手段として目を閉じた。  死を覚悟し、目を閉じかけたその時、視界を横切る影があった。  夕日に照らされたせいだろか。  その影は赤かった。
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