2 無限夢

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 前後左右、天地の区別もない闇の中。  ここはどこなのかといった疑問すら通用しない深い深い闇。  何も考えず、ただ宙に浮かぶように闇の中を漂う。  やがて前方にぼんやり光が見えてくる。  その光をたよりに闇の中をもがくように進み、そして気が付けば、見たこともない広い草原に立っていた。  風にたなびく無数の草花。  肌に触れない風。  落ちてきそうな青空。  雲は特撮映像のようにものすごい速さで流れ、目まぐるしく形を変えていく。  どこを見渡しても草原と空以外目につくものはない。  穏やかで優しい空間・・・  だが、何故か焦燥感に苛まれる。  不意に声が響く。  女性の声。  清らかな泉のように穏やかで、魂を揺さぶるような魅惑的な声。  声に導かれるまま草原を歩いていくと、やがて低い丘が見えてくる。  その丘の上に人影が見える。  丘の上に立っていたのは白いローブをまとった美しい女性。  白い衣とは対象的な艶やかな黒髪をなびかせ、丘の上から草原の果てを見つめている。  その後ろ姿だけでも画になる。  醸し出す雰囲気だけで虜になりそうなそんな女性。  聖女か、はたまた人を惑わす魔女か。  神々しさと妖しさに満ちたそんな女性。  自分はその女性に声もかけれず、ただその姿を見つめている。  すると、まるで自分を待ち構えていたかのように女性が振り返る。  その顔は見覚えがないが、何故か懐かしさが込み上げる。  それより何より女性の顔は美し過ぎる・・・  透けるような白い肌。  桜色の唇。  空の色を写しこんだような蒼い瞳。  そして、あの声。  自分をここまで導いた、人をひきつける優しい声。 「もうすぐ世界に終わりの時が来ます。」  その声とは裏腹な不吉な言葉。  だが、そんなことに興味はない。  自分が知りたいのはもっと別のことだ。  だから、女性の言葉の意味も尋ねず、出し抜けにこう問い掛ける。 「あなたは誰?」 「わたしは***」  女性は確かに自分の名を口にするのだが、いつも決まって名前の部分だけ掻き消される。  仕方なく自分は再度問い掛ける。  けれどやはり、女性が何者なのか知ることができない。  だから、今度はこんな質問をぶつけてみた。  よくよく考えれば妙な質問なのだが、この女性なら答えてくれそうな気がして、自分は問い掛けた。
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