第一章

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いつものコーヒー。 気分とは逆に今夜は上手く淹れる事ができた気がする。 多分いつもと同じだとは思うけど・・・こんな事を思う自分になんだか可笑しくなった。 二人向かい合って、上手く淹れることのできたコーヒーを飲みながら他愛無い話をした。 「そろそろ行ってみるよ。」 彼は『帰る』という言葉を使わない。 帰る時には必ず『行ってみるよ』と言う。 彼なりの気遣いなのかもしれない。 そんな気遣いなんてしなくてもいいのに。 たぶん、今夜は私を抱きにきたのだと思う。 普段以上に言葉が少なかったから。 帰り際の玄関。 いつもより長くて貪るようなキス。 「・・・・・んっ。」 その場に立って居られなくなるような長いキス。 こんな動物的な彼は珍しくて、やっぱり何かあったのかもしれない。 私のささくれ立った心なんかよりも、もっと大きな何かが。 もう少し優しくすればよかった・・・とこの時になって後悔した。
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