第二十八章

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「よく考えてみたら何も返してないんですよね。」 「返すって?」 「入社から一年間トレーナーをしてもらって、その後も色々とお世話になったままで・・・。」 「仕事だもの、当たり前の事をしただけよ。」 今となっては、頭一つ抜き出てデキる人になったけれど、入社したての頃は少し手こずったのを思い出した。 「でも、最初が森下さんで本当に良かったと思ってます。」 「新人の時は、同期で鬼の森下って言い合ってたんでしょ?」 「いや、そんな話はしなかったですよ。」 「いいの、鬼のトレーナーっていうのは本当だから。」 通常業務に加えて新人のトレーナーになるのは、かなりの負荷となる。 でも、私は嫌いじゃなかった。 会社という籠の中に入っていると、初心の気持ちが薄くなっていくのは否めない。 特に私は毎日を淡々と過ごしていたので、新人と一緒に成長していく事で、ややもすると主観的になる自分を客観的な位置で構える事ができた。 「今じゃ俺にとって、森下さんはかけがえのない人です。」 「そんな風に思ってもらえて嬉しい。」
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