第三十章

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「これ、月菜さんの好きなケーキです。」 玄関に入った涼くんの第一声。 「ありがとう。」 「本当に嬉しそうな顔しますね。 俺もその顔が見たくて買ってきたりするんですけど。」 買ってきてくれたケーキの箱を私に手渡して、靴を脱ぎ始めた。 そんな何でもない仕草のひとつひとつが、この部屋に慣れてきたことを感じさせる。 右足、そして左足の靴を脱ぎながらの少し前屈みになった体勢でのキス。 それは、唇が軽く触れる程度の優しいもの。 「逃げないと、このまま襲っちゃいますけど。」 「そんなことしたら、ケーキが潰れちゃう。」 不意打ちに一瞬固まってしまった私に、いたずらっ子のような笑顔で言う涼くん。 ほんと、この笑顔は危険。 今更ながら恥ずかしがることでもないのに、ちょっとだけドキドキしてしまった。
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