第三十一章

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「そろそろ帰ります。」 「帰る?」 「はい。 もしかして・・・寂しいとか?」 「・・・、平気。」 少し口を尖らせて言う彼女に軽くキスをした。 「俺も、寂しいですから。」 「私は平気。」 キスに少し驚いた様子をみせるも、2回も言うなんてまったく意地っ張りな人だ。 俺だって本当はまだ帰りたくない。 でも、明日の早朝会議の資料に目を通しておかなければならない。 彼女と一緒に過ごす時間と仕事を天秤にかける訳ではないが、今日は諦めるしかなかった。 「駅まで一人歩くのかぁ。」 「・・・送っていく?」 「本当に? あっ、えっ、送ってくれるんですか?」 「うん。」 「マジ嬉しい。 送ってもらえるなんて思ってなかったから。」 予想外の言葉だった。 そんなこと言われたら、諦めたのに揺らいでしまうよ。 この二日間で彼女は変わったと思う。 いや、前からの変化に俺が気がついてなかっただけなのかもしれない。 「駅まで手を繋いで歩きますか?」 「それはダメ。」 即答かよ。 「すみません、調子に乗りすぎました。」 「ほんと。 でも・・・、一回だけなら、いいけど。」 こういうところが、まだ素直じゃないが。
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