第三十一章

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夕方の駅前通りは混んでいた。 右側を歩く彼女に気を配りながら先に進む。 そろそろいいかと思い、そっと手を繋いでみた。 俺の方を見はしないが拒否する様子もない。 「この左手の薬指に早く着けたいです。 土曜日は鎌倉だから、日曜日に見に行きませんか?」 虫除けの意味合いもあるが、何よりも俺が安心したい。 こんなにも欲張りだったのかと、今更ながら思う。 「いいの?」 「もちろん。」 窺うような表情から笑顔に変わった。 こっちにまで嬉しさが伝わってくる。 改札が見えたところで、繋いでいた手を離す。 何だか今日は離れがたい気持ちがいつも以上に強かった。 でも我慢するしかない。 「それじゃ、また。 メールしますね。 あと、帰ったら電話します。」 「うん、待ってる。」 改札を抜けて後ろを振り返ると、笑顔で手を振る彼女がいた。 こうして見送ってもらうのも悪くないな。 そんな風に思いながら俺も手を振った。
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