第三十一章

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海斗からの電話を切り、タクシーで鎌倉へ向かった。 大丈夫だ。 怪我をしているから鎌倉に帰るんだ。 まったく海斗は大袈裟だな。 子供じゃあるまいし泣くこともないだろう。 改札で笑いながら手を振って別れた数時間後、今俺は鎌倉の家の前に立った。 出迎えくれたのは、真っ赤な目をした海斗。 無言で招き入れられた俺は、奴の後を黙ってついていくしかなかった。 「ここにいる。」 そう言い、和室の引戸が開いた奥に見えたのは顔に白い布をかけられた誰かが布団に横たわってるものだった。 月菜さんじゃないことを確かめたくて、その布を手に取る。 「なんだよ、眠ってるだけじゃないかよ。」 立ったまま俺を見下ろす海斗に怒りを込めて言い放つ。 「違うよ、涼。  信じられないけど、月菜はもう・・・」 と涙で言葉にならない海斗。 何か悪いことでもしたのだろうか。 眠っているだけだと自分に言い聞かせ、冷たくなっている彼女の頬を撫でるしかできなかった。
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