第三十一章

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この5日間、ずっと夢をみているようだった。 目の前で行われている事を受け入れられず思考が停止して、現実を拒否して、何かの映画でも観ているような思いでいた。 その一方で、彼女に贈ると約束した指輪をひとりで買いに行き、棺の中で目を閉じた彼女の指に無理やり嵌め、さらに抱きかかえようとしたらしい。 それも、涙ひとつ流さず笑いながら。 周りの人達は、そんな俺の異常ともいえる行動に誰も何も言えずにいたらしいが、海斗だけが傍から見れば気がおかしくなっているだろうともとれる俺の頬を殴りつけ、正気に戻そうとしていたらしい。 それもこれも後になって聞いた話。 俺は言い知れぬ後悔に襲われ自分自身を呪った。 なぜ、見送って欲しいなんて思ってしまったのか。 なぜ、もっと早く一緒に暮らさなかったのか。 全て俺が悪いんだ……。 俺が彼女の運命を狂わせてしまった。 ふたりで歩くはずだった未来、その先に道は拓けなかった。 何も無くなってしまった。 幸せにするって約束したのに。 ずっと隣にいると約束したのに。 俺の居場所を見つけられたのに。 一人で逝かせてしまった。 「月菜は誰も責めたりしない。 だから、あいつのぶんまで生きろ。」 この先、俺はひとりで歩いていけるのだろうか。 海斗が言った言葉も響かなかった。
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