第三十一章

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海斗が水桶と柄杓を持ち、俺は途中で買った花を持っていた。 この日が来るまで長かった。 納骨さえ見届けることなく日本から逃げ、一度も足を向ける事が無かった場所。 5年という時間の経過が、背中を押したのかもしれない。 意外にも心が落ち着いていた。 「此処だよ。」 様子を窺うように海斗が言った。 「あぁ。」 落ち着いている割には、続く言葉が出て来ない。 「大丈夫か?」 「あぁ。」 同じ返事しかできない。 動けない状態の俺から花を取り、黙々と動く海斗。 言葉も上手く発することができない俺を急かすわけでもなく、ただ黙っていてくれるのが嬉しかった。 そして・・・ 気がつけば、今にも涙が溢れそうだった。
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