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「ホントに気配を消すのが上手いね…。
姿くらい見せなよ。会うのは久しぶりなんだろう?」
「いいの。後で刹那に邪魔されない所で会うから。」
「ツレないねぇ…。
ねぇ楓。緋煉君って表情作ってる?」
全くの無表情で刹那が問う。
その言葉に楓が瞠目した。
「…気付いてたの?」
「ああ。」
「そう…。
あの子は確かに感情表現が殆どできないわ。」
楓は自分が側で見て来た少年のことを思い出して表情を暗くする。
「…あの子は一族の血の"業"を背負ってる。
私が保護する前も今も酷い目にあったしずっと苦しんでる。
…詳しくは言えないけど、あの子は私でも救えない。それくらいあの子の持ってるものは重い。」
「それで"表情を作ってる"と。」
「ほとんど無表情で、暗い感情はたまに出すけど、本当に笑ったことなんて一度もないよ」
少しの間重い沈黙が流れる。
「……何にしても今は彼を援護しないと。
"闇"が彼を探してる。」
「そうだね。…あの子を壊さないためにも。」
部屋にあった重い空気は払拭され、少し温かい風が2人を撫でていった。
*
――…
「………。」
地図の通りに歩いてきた俺は、辿り着いた先で呆然と足を止めていた。
それは何故かって?
目の前に寮があるからだ。
「それなら入ればいいだろうが!!」
と聞いた人は言うだろう。
もしそう言われても俺には入るやる気がない。
やる気がなくなった理由は
「…なんで高級ホテルが寮なんだ?」
寮の見た目が高級ホテルにしか見えなかったからだ。
要するにタダの気疲れ。
見た感じは黒が基調のシックな造りで俺好みではあるが。
"ほぼ"一般庶民と同等の暮らしをしていた俺には少し刺激が強かった。
しかも見た感じ、かなりの広さと高さがある。試しに数えてみると16階あった。
金がどれだけかけられているかは、…考えたくない…。
兎に角、そのまま突っ立っていては(校内ではあるから人通りはなかったけど)往来の邪魔になりそうなので中に入ることにする。
入り口の自動ドアを通り抜けてエントランスに入る。
エントランスの中は一面真っ白だった。
目の前には黒のデカいソファーにガラス張りの机。奥の方には壁のほとんどを占める広過ぎる窓。
本当に何なんだここは。
…この学校に来てからは呆然としてばかりな気がする。
あんまり突っ立っていては変な目で見られそうなのでキャリーを引いて受け付けに向かった。
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