入学式

9/12
前へ
/32ページ
次へ
青木部先生はヤクザで理不尽でよく人を簀巻きにして吊すけど、結構な苦労人なのかもしれないとちょっと思ってしまった。 立ち上がって教壇に立った先生の目が死んでいる。 「……仕方ない。 お前等、今日はもう帰っていいぞ。 本当はお前等の自己紹介とかさせようと思ってたんだがな。この有り様じゃ無理だろ。寮に帰るなり買い出しに行くなり好きに過ごせ。 じゃあ終わりだ。気を付けて帰れよ。」 そのまま片手を上げて教室のドアに向かう。 途中で先生は振り返って 「そうだ。倒れてるヤツは知ってるヤツが連れて帰ってやれ。"アレ"に気絶させられても特に害なんてないからな。 …いいか?間違っても保健室には連れてくんじゃねーぞ!」 最後だけ面倒くさそうに眉間にシワを寄せて去っていった。 先生がいなくなった教室に次第に喧騒が帰ってくる。 「…緋煉大丈夫かなあ?」 無意識の内にポツリと言葉が零れていた。 「…お前が心配してもその"緋煉"とか言うヤツは戻ってくるわけじゃないだろう?」 「…そうだけど。」 「…はぁ。 早めに解放されたことだしどっか食いにでも行くか?」 「……うん。」 どこまでもマイペースな閃の言葉に僕は仕方なく頷いた。 * 目を覚まして最初に見たのは真っ白な天井だった。 消毒液の匂い…。ここは保健室か? 体を起こそうとするが四肢が圧迫・固定されていて動きそうになかった。 布っぽい白と鎖が鳴る音がするから多分上級の捕縛術『マルゴラ・チェイン』だろう。 『マルゴラ・チェイン』は基本的に力の強い大型の魔物に使うものだ。しかも対象に対しての外からの魔力しか通さない優れものである。 当然、内からの攻撃は無駄なので、すぐに抵抗することを諦めた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加