第二章 雪女の戦略

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   だが、主君である洋輔の希望である。 「それでは、洋輔さま。洋輔さまご自身が、従者の妖に名付けたらいかがで御座いましょう」 「えっ、僕が?」 「左様で御座います」  洋輔としては、俗称なりあだ名なり正式な名前など無くても、それに代わる物が出てくればと思って聞いた事。  それを、名付けろと言われて困った。  洋輔の経験で、何かに名付けた事など一度もない。 「洋輔殿。是非とも、そうしてくれ」 「鬼の名前……」  妖怪などの伝承などで、鬼に名前が付けられているケースはいくつかある。  酒天童子や茨木童子。  これらは有名な鬼の名前であるが、これをそのまま引用するのは気が引ける。  赤鬼や青鬼、餓鬼などは鬼の分類する名称だ。 「太郎丸、次郎丸なんてどうかな? 金棒に封じた鬼の方は太郎丸で、君は次郎丸」 「次郎丸……」  鬼は、自分に付けられた名前をなぞるように呟いた。  神奈は、その字面でも思い浮かべるように、視線を上に向けながら考える。  小屋の中に、沈黙が流れた。
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