プロローグ

4/6
前へ
/664ページ
次へ
    和人は、その様子が尋常でないと思った。やけ酒だろうか。何か思い悩むことでもあるのだろうかと気に掛かった。 和人はグラスを持って席を立ち、女性の席に歩み寄る。 「お嬢さん。ここいいですか?」 女性が「ええ」と短く答えたので、和人はグラスをカウンターテーブルの上に置いて隣のスチールチェアに腰を下ろした。 「まだ飲みますか?」 和人は女性の方を向いて優しく尋ねた。 「そうね」 女性は和人に視線を向けず、マスターの後ろ姿をぼんやり眺めている。   「マスター。この人にダブルの水割りを」 「はいよ」 マスターは女性のグラスにブレイクアイスを一欠片足すと、ボトルからウィスキーを注ぎミネラルウォーターを注ぎ足した。 「お嬢さん。ロックは身にこたえますよ」 和人は女性に声をかけると、グラスの横にソルティドッグのグラスを並べて置いた。 店内にジム・ホールのジャズギターが流れ始める。 女性は和人の忠告に答えることなく再び両手をグラスに伸ばした。 .
/664ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6744人が本棚に入れています
本棚に追加