6744人が本棚に入れています
本棚に追加
和人は、その様子が尋常でないと思った。やけ酒だろうか。何か思い悩むことでもあるのだろうかと気に掛かった。
和人はグラスを持って席を立ち、女性の席に歩み寄る。
「お嬢さん。ここいいですか?」
女性が「ええ」と短く答えたので、和人はグラスをカウンターテーブルの上に置いて隣のスチールチェアに腰を下ろした。
「まだ飲みますか?」
和人は女性の方を向いて優しく尋ねた。
「そうね」
女性は和人に視線を向けず、マスターの後ろ姿をぼんやり眺めている。
「マスター。この人にダブルの水割りを」
「はいよ」
マスターは女性のグラスにブレイクアイスを一欠片足すと、ボトルからウィスキーを注ぎミネラルウォーターを注ぎ足した。
「お嬢さん。ロックは身にこたえますよ」
和人は女性に声をかけると、グラスの横にソルティドッグのグラスを並べて置いた。
店内にジム・ホールのジャズギターが流れ始める。
女性は和人の忠告に答えることなく再び両手をグラスに伸ばした。
.
最初のコメントを投稿しよう!