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  暑かった夏が終わり、透けるような青空から涼しい秋の日差しが降り注いでいた。 小田川(おだがわ)の堤防には、丈の長い草やススキが伸び、風を受けて柔らかなウェーブを描いている。 未流は今日で最後になるかも知れない夏服のリボンをそよがせながら、堤防道路を自転車に乗って走っていた。 「ちょっと待ってよ」 後ろから甲高い女の子の声が響く。同級の(はるか)だ。 「未流。どうして帰っちゃうの? シンボルマスコットの制作が遅れてるから、みんな手伝ってるわよ」 遥は未流の自転車に並ぶと、さらに大きな声を出す。 「未流。待ちなさいよ」 未流は、一旦自転車を停めると遥を振り返る。そして分厚い眼鏡の下から遥の目を覗き込んで言った。 「読みかけの本があるの」 .
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