ふうちゃんとおねえちゃん

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 ある夏の日。安アパートの呼び鈴の軽快な音が鳴った。僕は友達が多い方ではないので、来客は珍しい。何か怪しいものの勧誘でかもしれないと予想してドアを開くと、実の姉がいた。 「ただいま、ふうちゃん」 姉は照れたようにはにかんだ。  僕は最初、彼女の輪郭を見た。全体に細っこいのは変わらないまま。  次に色のついた彼女を見た。髪型も、最後に彼女を見た日と変わらずに明るい色のボブ。長くて透明なほど白い、綺麗な首のラインを自慢げにむき出しにしていて、左手には小さなバッグが手元からぶらんと下がり、膝の真下の辺りで、ワンピースの裾はそろっていた。パンプスは、彼女のつま先からかかとを柔らかに守っていた。おかげで彼女の足は美しく保たれていた。  僕はといえば、どんなに彼女を見ても、彼女がここにいることが理解しきれないままだった。まるで現実味がどこかへ行ってしまったみたいだ。  彼女の実家は、千葉の海沿いの街にある(もちろんそれは僕の実家でもある)。しかしここは間違いなく僕の東京のアパートで、彼女にこの場所を教えた覚えはなかった。百歩譲って彼女がここを知っていたとしても、ここに来た意図が掴めなかった。  わざわざ僕の部屋に来るくらいなら、実家で両親に会えばいいのに。そして今までの放蕩娘のなりを謝って欲しいものだ。  実はこの目の前にいる姉は、1年前に葬式を挙げたばかりの、死にたてほやほやなのだ。
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