ふうちゃんとおねえちゃん

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 僕は夢だと思った。目を覚まそうと努めた。しかし目はしっかり覚めているし、こうして声が聞こえ、姿が見え、彼女の足元には影がある。非常に残念なことに夢ではなく、彼女は確かにいるのだ。  しかし、ここに何をしに来たのだろうか。この世に未練が?それとも、僕を呪いに?――背筋がぞっとした。恐る恐る、僕は彼女に聞いた。 「なんで戻ってきたの」 「それより中に入れてくれる? 外は暑くて」 彼女の唇が音を発して震えた。赤い唇は死んでもなお艶めいていた。呪ったりしないから、と後から彼女は付け加えたが、冗談の口調だったのが逆に怖くなった。  ぱたぱたと彼女は自分の手で頬のあたりを扇いだ。幽霊であるはずの彼女にそれは意味があるのかわからなかった。が、たしかに今日は、天気予報のおじさんが言うには最高気温が38℃になるらしいし、また、彼の言う降水確率の低さを信じてまとめて洗った服を干している。  幽霊に感覚があれば、きっと暑いはずだ。 「……いいよ、入りなよ」 「わあ、ありがとう。お邪魔しまぁす」 そういって彼女は部屋に上がりこんだ。途端に 「うわあ、小汚い部屋ね」と言った。 「最近忙しくて。なかなか片付けられないんだ」 「でも、まだ毛布が出てるじゃない。今、何月だと思ってるの」 彼女は僕のベッドを見て言った。目ざといところは一回死んでも変わらないみたいだ。
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