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「今日は、七月二七日だろ」僕はカレンダーを見ながら答えた。
「そう。だから出戻ってきたんじゃない。わざわざ」
「今日だから?」
「そうよ。もうすぐ私が死んで半年だから」
彼女はニコニコと笑いながら言った。この人は、あれからの僕たち家族の苦労を知らない。
「そうだね。ちょっとそこに座って」
「えー、座イスに座りたーい」
彼女が言うのも聞かず、僕は彼女の足元にあった本やら書類の山を開き割った。これで一人分のスペースは出来たので、僕はそこに座布団を敷いた。もう、なんなのよ、と彼女は座った。すると即座に、お茶は?と聞いてきた。彼女のマイペースさにはほとほと呆れる。僕は台所に立ち、冷蔵庫を開けた。
「アイスコーヒーでいい? 甘くないけど」
「ガムシロップある?」
「ないよ。ミルクならある」
「じゃあミルク入れて。あ、あと氷もね」
僕はため息をついて彼女には注文通り、自分にはブラックでコーヒーを入れた。入れたといっても数日前に淹れておいたコーヒーを、ピッチャーからグラスに入れなおしただけなので、時間も手間もかからなかったが。
「はい」彼女にグラスを渡した。
「ありがとう。あ、氷一個だけだ。けちだね、ふうちゃん」
「昔から、『薄まるのはいやだけど温くなるのもいや』って氷は一個だけしか入れなかったじゃないか」
僕は彼女に言った。彼女も、僕が覚えていることを分かっていたみたいで、ふふ、と笑った。いつの間にか、彼女と自然に話している自分にはっとした。
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