ふうちゃんとおねえちゃん

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「ふうちゃん、今何の仕事してるの?」 「ガテン系のバイト。今日も夜シフト入ってる」 「あれ、前からそうだったっけ」 「お姉ちゃんが死んでから、前の職場はやめた。……借金の返済にとても追いつかないからね」 僕がそういうと、彼女は目を伏せた。少し言い方に棘があったかもしれない。けど僕は謝らなかった。少なくとも彼女に罪悪感を持ってもらいたかったし、そのためにあんな言い方をしたのかも知れない。彼女も僕もまだ黙っているので、扇風機が鳴らしていたぶんぶんという音が、やけに大きくなった気がした。 「……ごめんね」 沈黙のあとに彼女が発した言葉はただそれきりだった。下を向いたままだった。 きっと黙っていた数十秒、どんな事を言えば僕が一番怒らないかを考えていたに違いない。それでひねり出されたのがごめんね、の一言なのだ。きっと彼女の消え入りそうな声は演技だ。肩が震えているのも、きっと演技だ。姉はこういう人ではないか。僕はわざとそう思い込んだ。僕はふつふつと湧いてきた憤りを何かにぶつけずにはいられなかった。
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