ふうちゃんとおねえちゃん

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 僕は僕が怒りたいがためだけに、姉を怒鳴りつけた。 「…ごめんね、じゃないよ。いい加減にしろよ! なんでお姉ちゃんはいつもいっつも僕たちを苦しめるわけ? 僕たちがこの半年、どんな思いでいたか知ってる? お葬式の準備で僕が実家に戻ったとき、近所の人たちどんな目で見たと思う? どれだけ僕たちを追い込めば気が済むの? やめてよ。死んでまで僕たちを追い込むのはやめてくれよ! …お母さんだって、いまだに外に出られないんだよ!」 お母さんの話を出すと姉ははっと顔を上げた。 「それ、本当?」 「何言ってんの。ウソだったら、どんなにいいか」 そう言うと姉を睨みつけた。彼女の瞳は濡れていた。僕は泣くのを我慢して咽喉が痛いほどなのに、すでに乾いている涙は一粒も出やしなかった。 「お父さんが今は面倒見てるけど…あの町から引っ越せもしないんだよ。お金が無いからね。お姉ちゃんの借金返してるせいでさ。お姉ちゃんに『出てけ』って言ったこと、今は悪かったって言ってる。でも僕は間違ってなかったと思うね。お姉ちゃんが出てってせいせいしてたし。けど、死んでからも会うなんてさ。なんで僕のところなんかに来たんだよ」 口から悪い言葉ばかりがついて出た。そのくせ口は皮肉の半笑いを浮かべている。こんなに貶すつもりは無かった。もうどうにもならないことを、こんな風にまくし立てて言われた彼女は苦しげだ。 「ごめんね、本当に……。迷惑かけて、ごめんなさい」 ぼしょぼしょした喋り方だったのが、急にはっきりとした口調になった。この人なりに反省をしたのだろう。僕はこんなに正直に反省する彼女を見て、とても申し訳なく思った。 「いや…ごめんね、言い過ぎた。ちょっと最近忙しくて、疲れちゃってて」 そんな言い訳をした。忙しい事を理由にした自分は卑怯だった。僕は半分以上余っていたブラックコーヒーを飲み干した。彼女のグラスを見ると、手で握っているのに、ほとんど口をつけていないようで、氷はすっかり溶けきっていた。
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