ふうちゃんとおねえちゃん

9/14
前へ
/23ページ
次へ
 僕が一六のときに出て行ったあの日から、いや、きっとその前から、おそらく僕は彼女を軽蔑している。それを騙しだまし話を聞いた。 「彼にお金が足りないって言ったら、また五〇万くれた。その分一緒に寝る回数も増えたわけなんだけど、ね」 そこまで言うと言葉を切った。彼女は何か大切な事を言おうとしている。そう思って耳を傾けた。 「そんな生活が二年くらい続いたら、彼さあ、急に別の若い女の子マンションに連れてきちゃって。一緒に住めば?なんて彼は言ってたけど、冗談じゃないと思って、すぐに彼を脅して作らせた一〇〇万ぽっちの手切れ金と、ほんの少しの服と鞄とを持って出て行ったの」  ひゃくまんえん。それだけあったら、このアパートを何ヶ月借りていられるだろう。僕の食費の何ヶ月分だろう。ピン札で重ねたら厚みは一センチ。庶民的な解釈が浮かんだ。僕にはその価値すら皆目分からなかった。  ただ彼女の壮絶な半生を、僕はなんとなく頭で映像化して見ていた。 「で、一〇〇万あったって、愛人の頃と同じ暮らしなんかしてたら一ヶ月足らずで使い切っちゃうわけ。ただでさえ慢喫で寝泊りしてたからね。コンビニでご飯買って、仕事しようなんてさらさら思わなかった。それでズルズル金を借りるわけ。気が付いたら信じらんないくらいの借金。正直びっくりしたよ」 彼女の借金の理由は分かった。惰性だ。そんなに楽をして生きていたら、きっと働く気にもならないのは無理ないだろう。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加