ふうちゃんとおねえちゃん

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「ふうちゃん」 涙声で姉は言う。 「お姉ちゃんね、自分に足りないものを探しに行ってたの。そして、ふうちゃんたちのところには二度とかえってこないつもりだった」  二度とかえってこない、という言葉に一瞬ひやりとする。自分に足りないもの。たくさんありすぎて考えるのに困る。頭の中で挙げていけばキリがなかった。姉に足りないものとはなんだろうか。 「でもね、いろんなものを見てきて思ったの。男の人と抱きあうと自分に足りない部分が埋まった気がするんだよ。――これって、間違ってるよね?」 姉は悲しげだった。涙が瞳から零れるのをやっとのことで抑えていた。彼女の全身が、彼女の心も体ももう限界であったことを伝えてきた。 「正しいかどうかはわからないけど、でも自分の穴の埋め方は人それぞれだよ」 本当は自分でもよく分かっていなかったけれど、僕はこう言った。小刻みに震える彼女のためにかけてあげるべきなのは、優しい言葉だ。  僕は彼女の手を握った。彼女がすでにこの世界にはいないなら、彼女のために何か出来ることを最大限にしてやるべきなんじゃないだろうかと考えたのだ。幽霊のはずがほのかに温く、それがなんだか可笑しかった。そして、目の前の姉にこう言った。 「もし僕たち家族が、お姉ちゃんを家族として暖かく受け入れてたら、その穴は埋まってたのかな、きっと」 「ごめんね、ふうちゃん。そんなこと考えせるつもりじゃなかったんだけど」 姉は申し訳なさそうな顔をした。僕は胸が締めつけられた。
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